Illust

Web

News

About

Contact

アートプロジェクト「PETRA」について

アートプロジェクト「PETRA」について

バイオアート「Littermate」のプロジェクトとして、AIを用いたインスタレーション「PETRA」の制作と、展示プロジェクトを行いました。
この記事では、このプロジェクトを始めるに至ったモチベーションと気づきを紹介します。

作品の内容

コンセプト

「PETRA」は、生物の遺伝子操作が手軽になった世界で、ユーザーが自由に理想のペットを生成できるデバイスです。
モニターに映し出された個体に、「翼を生やして」「尻尾をふさふさに」といって"注文"を行い、それを叶える遺伝子操作を施した新たな個体が生み出される仕組みです。
しかし、実際のPETRAの目的はそれだけではありません。人類がこれから触れる、新たな進化論についての問いかけなのです。
かつて、現生する生命は神が創造したものとされ、現代は自然淘汰によって進化してきたものであると理解されています。
しかし、遺伝子編集が高度に発達した世界では、人間の"好み"が選択圧となる、"第三の進化"が始めるのではないでしょうか。
"第三の進化"では生命はどのように進化し、そしてどんな絶滅を迎えるのか。
PETRAはそのような新たな進化論を切り開く、研究デバイスでもあるのです。

構成

PETRAは、ゲームセンターの筐体のような見た目をしています。
モニターの前にはキーボードとマウスが置かれており、ユーザーは自由に画面を操作できます。

根幹の仕組みは画像生成AIが担っています。表示された画像に対して、ユーザーが注文 (プロンプト) を入力し、前の画像の絵柄や特徴を忠実に保ったまま、マイナーチェンジを行います。
生成された画像が表示されると同時に、QRコードが印字された用紙がプリンターから自動で排出されます。
また、生成された今までの全ての"個体"の系譜が閲覧できる画面をWeb上で公開しています。
ユーザーはQRコードを読み取ることで自身が生成した画像を確認できるとともに、膨大な樹形図を見ることで、初代の個体からどのような変遷を経て自身の個体になったのかを鑑賞することができます。


展示

この作品は2025年11月13日から17日までの5日間、東京大学制作展に展示しました。
イベントの詳細は公式サイトに詳しいですが、東大大学院の学生を主体とした、テクノロジー・アート・デザインの融合展です。
Littermateが元々学生時代から活動していたことと、これは大きいのですが、メンバーの一人がこの企画の総合ディレクターを務めていた縁で、今回の出展に繋がりました。

モチベーション

大きく2つあります。

  1. 新たなエンジニアリングの在り方を試してみたかったこと。
  2. プロジェクトマネージングにAIを使ってみたかったこと。


新たなエンジニアリングの在り方を試してみたかった

僕はフロントエンジニア4年目にして、数多くの案件に取り掛かってきましたが、Webプロダクトの多くは、工数削減やマーケティングにその目的の重きを置くものでした。
すなわちWebプロダクトそのものに価値があるというよりは、元々価値を発揮するサービスや製品があり、それらのサポートでしかないものが多くを占めます。
また、いわゆる"真心のこもった製品"というのは「手作り」のものに宿るとみなされる傾向があるように感じます。
例えば、工場で大量生産される饅頭より、地方の個人店でおばあちゃんが作っているそれの方が、真心や魅力を持っているように見えるのではないでしょうか。
そこで、Webエンジニアリングの、あえて大きく言えば、エンジニアリングそのもので一つの魅力を持たせるプロダクトを作ってみたいという考えに至りました。

PETRAは何かの宣伝やオンライン版というわけではなく、Webアプリのみでメッセージを発信するアート作品です。
"便利"だけを目指さないエンジニアリングとして、技術と興味の融合として体現された取り組みでした。

プロジェクトマネージングにAIを使ってみたかった

これは付随的なモチベーションです
「Littermateを始め、仕事の傍らで進めるプロジェクトを如何に大量を削ぎ過ぎることなく進行できるか」というので、なるべく自動化を図りながらアートプロジェクトを進める機会を探していました。
今回は僕主導のプロジェクトだったのですが、コンセプトメイキングの雛形作成から、TODOの洗い出し、スケジュールへの反映、定例ミーティングの議事録作成まで、人間のオリジナリティを要さない部分はほぼAIに任せました。
ブラッシュアップは必要ですが、理想のフローができれば、今後展示や制作などのプロジェクトを、労力をかけることなく管理できるので、結構手応えありでした。
ワークフローについては、またいずれ別の記事で紹介できたらと思います。

気づき

"物体"としての面白さ

PETRAはWebブラウザで完結する作品です。どんなノートパソコンでもそこに置くだけで問題なく動作します。
しかし、PCをポンと設置するのではなく、あえてゲームの筐体のようなデバイスとして表現したのは、非常に効果的だったと振り返ります。
今回は複数の作品の中で展示を行いましたが、背景に溶け込まず、空間に対して異質なものがあるという違和感・存在感を演出できたと思います。
実を言うと、筐体の作りは極めて簡易的なものでした。筐体そのものを買う予算がなかったので、発泡スチロールを切断し、上からプラスチック様のフィルムを貼ったに過ぎません。
近くで見るとすぐにボロが出ますが、そんなクオリティでも十分に目を惹きつけるプロダクトにできたのは、嬉しい発見でした。

メッセージを作る難しさ

先に述べた制作展の展示に向けて、この作品自体が持つメッセージを求められました。
Littermateはアパレル作品を多く手がけてきたこともあって、基本的な動き方はデザインに近いものでした。明確な主張を持って作品を作るというよりは、見た目のかわいさ・かっこよさと作品の主題となる生物学的テーマありきの作品の作り方でした。
一方、PETRAは見た目の魅力の検討もさることながら、展示の性質上、作品そのものに求められるメッセージが重要視されました。
その事実に気づいたのはプロダクト先行で制作を進めてしまった後だったため、プロダクトの仕様は大きくは変えられないまま意味やメッセージを込める必要があり、かなり難航しました。

作品の意味を考える上で、安直にネガティブなものにはしたくないという思いがありました。
抽象的なアート作品となると、悲観的、批判的なものになりがちな印象がありました。確かにそれは考えやすく、わかりやすいメッセージではありましたが、それは避けたかった。
そこで、「人間都合で遺伝子を書き換えるディストピア」のようなものではなく、純粋に進化や遺伝子編集技術への面白さを伝える方向でいきたいと考えました。

メッセージを決めた後は、それを100%伝えられる仕掛けに作品がなっているかを精査する必要があります。
PETRAは遺伝子操作を行うデバイスであって、画像生成のツールではありません。
初回アクセスのページから、生成画面、系統樹画面まで、各ステップがただの流行りの画像生成の体験ではなく、生物学の世界観を体現する工夫を行いました。

主張となるコンセプトと、それを細部であっても伝えられるようなUI・UXがあって、両者を行ったり来たりしながら高めていくことがこの手の作品を作る上で最重要であると気づきました。

ゆ
© 2024 by Yuichiro.